令和5年度の業務目的

  2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際的枠組みであるパリ協定が2016年12月に発効しました。 この中では、産業革命後の温度上昇目標として2.0℃、また努力目標として1.5℃が掲げられています。 パリ協定では、5年ごとに参加各国の温暖化対策の実施状況等の報告の義務があります。 これに伴い国内でも5年サイクルでの温暖化関連各種レポート(日本の気候変動2020、影響評価報告書2020等)、あるいは我が国のナショナルシナリオ(予定:気候予測データセット2022)の発行が求められています。 また、パリ協定の実現に向けて我が国政府も、カーボンニュートラル2050(CN2050)を宣言しています。 これまでの文科省の研究プログラムにおいても、政府による、ナショナルシナリオに含まれる予定の気候予測データセットの気候変動適応策への活用はすでに始まっています。 本課題では、今後一層必要性が増してくる国・地方自治体による気候変動適応策の検討・実施や民間企業の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)における気候変動に伴い増加が懸念される異常気象等の物理リスク評価などにともなうユーザーニーズに対応することを目指します。
  その為に、温暖化対策検討の根拠となる我が国のより高精度なナショナルシナリオの提供を目指し、高精度のモデルのアセンブル、2021年8月に承認された気候変動に関する政府間パネル第1作業部会(IPCC/ WG1)の第6次評価報告書の評価で使われたSSP(共通社会経済経路)シナリオによる計算実施から気候変動に伴う気候ハザードの要因分析、温暖化予測データの効果的な配信に向けた研究を行なうことを目的とします。 本課題では、以下のサブ課題及びワークスで研究に取り組みます。
サブ課題ⅰ「日本域の気候変動の予測システム開発とメカニズム解明」では、気象業務支援センター(JMBSC)が海洋研究開発機構(JAMSTEC)とともに、領域気候モデル、海洋モデルを含む高精度モデルの開発とアセンブルを行ない、さらにSSP(共通社会経済経路)シナリオによる計算実施から気候変動に伴う大規模な気候ハザードの要因分析を実施します。
サブ課題ⅱ「地域・流域の適応策推進に向けた気候変動予測情報の創出・極端現象メカニズムの解明」では、北海道大学が、東北大学、名古屋大学、JAMSTEC、JMBSCとともに、ユーザフレンドリーな情報の創出を目指して、メガアンサンブルデータの改良と実行、イベントアトリビューション研究の推進、AI等を活用した低頻度極端現象の抽出方法等の研究開発を専門家の参加を得て行ないます。
サブ課題ⅲ「海外の脆弱地域における高精度気候予測データセットの創出」では、JMBSCが中心となり、海外関連研究機関と連携を取りつつサブ課題1、2の成果を世界の脆弱地域に還元する研究を実施します。
サブ課題横断で実施するワークス「プロダクツ利活用促進」は、JMBSCとJAMSTEC中心で、温暖化予測データをユーザーに効果的に提供するシステムをデータ統合・解析システム(DIAS)上に構築・運用し、データの利活用を促進します。 このワークスは本課題参画者と課題内外のユーザーを繋ぐ役割を担い、本課題のテーマである「行動につながる気候科学」の円滑な実現を目的とします。 pagetop

令和5年度の業務方法

サブ課題ⅰ:日本域の気候変動の予測システム開発とメカニズム解明

 ⅰ-a:全球高解像度気候変動予測システム開発(全球班)

大気モデル解像度60kmおよび20kmの全球気候変動予測システム Time Sequential Experiments with Coupled model (TSE-C) について、令和4年度に行った改良に加えて、アジア域を中心とした気候状態・季節進行をさらに向上させるシステム改良を行う。 温暖化予測実験を行う際に将来変化シナリオデータとして与える海洋の水温・塩分・海氷分布を、第6次結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)実験データを用いて作成する。 大気モデル解像度60kmのTSE-Cを用いて、代表的な温暖化シナリオに基づく20世紀中頃から21世紀末まで連続した温暖化予測実験を開始する。

 ⅰ-b:日本域大気・陸面変動予測システム開発(領域班)

20km格子の地域気候モデル(NHRCM20)の仕様を固め、(i)-aで実施される大気モデル解像度60kmのTSE-Cによる実験を境界値とした日本周辺20kmダウンスケーリングを実施する。 過去再現実験に関しては、観測データによる再現性の検証やd4PDF20km領域版等の既存の20km領域モデルの結果と比較する。 更なる高解像度化のため、5km格子の地域気候モデル(NHRCM05)のセッティングを行う。 令和4年度に整備した新領域気候モデル(asuca領域気候版)を用いて、再解析データや既存の全球予測実験データからのダウンスケール実験を行い、現在気候の再現性を検証する。 NHRCMの陸面モデル(iSiB)とasuca領域気候版の陸面モデル(eSiB)、SMAPで計算される積雪を比較し、日本の積雪の再現性を評価する。 eSiBに積雪変質モデル(SMAP)のアルベド等の一部コンポーネントの組み込みを開始する。 また、NHRCMに実装されている都市モデルSPUCを切り離して1次元化し、asuca領域気候版への移植を始める。

 ⅰ-c:日本域海洋変動予測システム開発(海洋班)

全球モデルおよび北太平洋モデルにおいて、(i)-aにより作成される外力を用いてスピンアップ行い、以後の現在気候および温暖化実験時のドリフトが少ない初期値を作成する。 この初期値から(i)-aの時間連続温暖化予測実験により作られた外力を用いて、全球および北太平洋10kmの代表的な温暖化シナリオに基づく温暖化予測実験を開始する。 20世紀後半から現在までの日本近海域の高解像度海洋再解析データの作成を開始する。

 ⅰ-d:統合的解析による日本域気候変動メカニズム解明(解析班)

全球気候変動予測システム(TSE-C)による実験について、過去・現在気候に関する再現性能を評価する。 また、日本域大気-陸面モデルおよび海洋モデルに与える境界値としてのTSE-Cのバイアス特性を把握し、各領域モデル実験への影響を理解する。 新/旧予測システムによる実験に基づいて日本付近の極端気象および大規模場の気候変動に関する解析を行い、必要に応じてCMIP6実験解析を併用し、メカニズム理解および不確実性定量化のための検討を行う。

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サブ課題ⅱ:地域・流域の適応策推進に向けた気候変動予測情報の創出・極端現象メカニズムの解明

 ⅱ-a:高解像度データセットと力学的・統計的情報を統合した予測手法の開発

令和4年度に引き続き、日本全国を網羅する5km解像度の気候予測データ(改良版d4PDF)を作成するため、領域気候モデルNHRCMによる力学的ダウンスケーリングを進め,随時その結果を分析する。 解像度の違いが極端現象へ与える影響の定量化を進めつつ、要因の分析を実施する。 最大クラスの台風について、より高度化した非静力学モデルで力学的ダウンスケーリングを実施し、台風の将来予測に必要となるデータを整備し解析する。 シームレス実験とタイムスライス実験の互いの長所を最大限に活用可能な数理手法の開発を進め、極端現象への適用を開始する。 昨年度同様にそれらの成果を領域課題4やサブ課題1、本副課題(ii)-b、(ii)-cに提供することで、地域スケールでの低頻度極端現象の理解に貢献する。

 ⅱ-b:近年の極端気象に影響を及ぼす気候気象要因の分析

R04に実施したd4PDF過去及び非温暖化延長実験の20km領域版の一部を、5kmメッシュのNHRCMを用いてダウンスケーリングし、近年の極端気候に対する温暖化影響を評価する。 アクショナブルEA研究に向けて、他課題と連携して機動的EAの開発を進め、極端気象が発生した場合は速やかに温暖化影響を評価できるような体制を作る。 令和4年度に発生した極端気象に及ぼした温暖化の影響を、量的・確率的の両面から評価する。 総観場分類に基づいて作成した差分データを用いて極端気象事例を対象とした擬似温暖化実験を試行する。 データセット2022や昨年度実施した東アジアにおける感度実験結果等を用い、日本の極端気象に対するアジアスケールから局地スケールの循環場の影響について解析する。

 ⅱ-c:地域・流域スケールにおけるリスク増大・最大規模を考慮した極端現象のメカニズム解明

昨年度に続き、領域課題4やサブ課題(iii)ならびに関連する研究コミュニティ等との連携を通して、地域・流域スケールにおける気象外力の感度およびティッピングポイント・最大規模の把握に向けた外力規模情報を分析する。 データセット2022や現在作成中の改良版d4PDF等を用い、極端気象の状況と発生時の総観場にみられる将来変化やその季節性について解析する。 対象とする気候データセットの違い(解像度、側方・底面境界条件、パラメタリゼーション)により生じる外力の差異の定量化、気候・気象学的要因の評価を進める。

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サブ課題ⅲ:海外の脆弱地域における高精度気候予測データセットの創出

熱帯・亜熱帯域における非静力学地域気候モデルによる降水量の再現性向上を目指し、インドネシアのジャワ島を対象とした5km格子の地域気候モデルによる感度実験を行う。 その際、積雲対流パラメタリゼーション内の各種パラメーターに伴う感度を調べる。 気候変動に対して脆弱な地域から研究者を招聘し、当該地域の気候予測データを創出する。 引き続き、日本の気候に大きな影響を与えると考えられるアジアモンスーン地域の気候変化について、メソ対流系やその他の大雨事例等に注目しながら解析する。 さらに、協同地域ダウンスケーリング実験-東アジア(CORDEX-EA)関連の数値実験の実現可能性について調査するため、地域気候モデルによる連続実験を行う。

課題全体での取り組み

 プロダクツ利活用促進:ワークス

公開サイトの充実:「気候予測データセット2022」の公開サイトについて、データ利用者にチアする問い合わせ回答や問い合わせを踏まえたコンテンツの拡充を実施する。

DIASとの連携:また、DIASと連携してデータ利用のための環境整備についての検討を引き続き行い、ツールの設計・試作を開始する。

ワークショップの開催:気候予測データの開発者と利用者の相互理解を深めるために、相互のコミュニケーションを促進する場をつくる。 そのために課題3/4で連携してデータ利活用に関するワークショップを実施する。また、課題3/4連携会合を開催する。

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