令和2年度の業務目的

 本課題は、日本周辺からアジア域を主たるターゲットとして、国の温暖化対策に向けた評価に適う気候学・気象学的な情報の創出を目指した技術開発を主たる目的とするものである。
 地球温暖化研究をめぐる情勢としては、国際的には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書が2021年刊行に向けて執筆が進んでいる。この中では、第1作業部会(温暖化予測の科学的知見)と第2作業部会(温暖化への適応策)、第3作業部会(温暖化緩和策)間の連携がより一層求められている。また、気候変動抑制を目的としたパリ協定が平成27年12月に採択、平成28年11月に発効した。
 国内的には、平成27年11月に「気候変動の影響への適応計画」が閣議決定された。これを受けて、環境省により「気候変動適応情報プラットフォーム」(A-Plat)が平成28年8月に整備され、また平成29年度より3か年の計画で、環境省・農林水産省・国土交通省が連携した「地域適応コンソーシアム事業」が実施された。この事業は地方公共団体における気候変動影響評価の実施や適応計画の策定及び実施を促進し、科学的知見を第2次気候変動影響評価に活用することを目指している。これらを受けて「気候変動適応法」が平成30年12月に施行され、全国自治体で適応策策定の動きが加速している。これに伴い、国立環境研究所内に「気候変動適応センター」が設置された。
 平成30年度に、気象庁・文部科学省はこれら諸活動へ提供する温暖化予測データの取りまとめを企図する「気候変動に関する懇談会」を設置した。懇談会では、日本域の気候変動の実態を記述する“気候変動評価レポート2020”の刊行を令和2年度中に行うべく準備を進めているがこれには、本プログラム各領域テーマの令和元年度までの成果がベースとなっている。懇談会ではさらに、気候予測データセット2022(以下、「データ2022」)と解説書の刊行を企画している。この予測情報は、環境省が気候変動適応法に基づく概ね5年ごとに刊行する“影響評価レポート”のための各種影響評価研究への入力データとなる。“影響評価レポート”は最終的な自治体単位での温暖化対策策定の基礎となるものであり、日本国にとり大変重要な事業である。
 この状況下でデータ2022へユーザーから様々な要求がきている。これは、文科省で令和元年度まで実施されたSI-CATプログラム、あるいは環境省の“地域適応コンソーシアム”におけるユーザーグループの議論の中でも明らかになってきたものである。特に要望の高いものとして、従来の地上気温・降水量のみならず、陸上での日射量、相対湿度、風速、積雪量、また、海洋の諸情報がある。
 このように、気候変動の影響への適応策を策定するに当たっては、第1次情報として様々な気象要素に関する高精度で高解像度の将来予測情報が必要になる。本研究課題では、このような今後の多様な社会的要請に対応していくために以下の目標を立てて研究を進める
 領域課題(i)「高精度統合型モデルの開発」では、創生プログラムまでは大気モデルを用いた気候計算が中心であったが、気象・気候の様々な事象に対する海洋の影響を考慮し、大気海洋相互作用を評価できる高解像度大気・海洋結合系ベースの気候モデルへ移行する。また、新たなモデルコンポーネントを導入し物理変数の精度を向上させ、環境評価に必要な化学的気候情報が作成可能となるモデルの統合化に取り組む。また、本業務においては、将来予測実験のみならず、過去の温暖化を気候学的に検証するために、過去の大気海洋観測データと、創生プロで開発したアンサンブルデータ同化システムを発展させて、150年気候再解析を試みる。また、特に力学的ダウンスケーリングを担う地域気候モデルに関してはユーザーからの要望の高い様々な気象要素(日射量、湿度等)について、その精度向上を目指すモデル開発を進め、物理スキームを完成させる。またユーザーからの要望の高い日本周辺の海洋情報について、高解像度海洋モデルを用いた情報創出を目指す。
 領域課題(ii)「汎用シナリオ整備とメカニズム解明」では、水資源・農業・健康など、多岐にわたる影響評価やリスク管理に利用できる温暖化気候データを整備するとともに、それらデータを用いた顕著現象や極端現象の将来変化メカニズムの研究を高解像度の全球・領域大気モデルの特徴を生かして実施し、より信頼度が高く、メカニズム研究にも利用可能な気候シナリオデータセットの構築を目指す。ユーザーからの要望の大きい、気温・降水量以外の各種気象変数について、モデル開発のサブ課題と連携しつつ検証研究を進め出力改善に寄与する。特に放射データに関しては改善版の提供を目指す。多アンサンブル実験の解像度を補う手法の開発を行い、極端現象を評価できる解像度(1㎞程度)まで高解像度した極端現象予測情報を創出するシステムの構築を目指す。また台風の将来変化に特化した領域大気海洋結合モデル及び雲解像モデルによる実験を実施し、メカニズムに着目しながら顕著現象の将来変化の不確実性評価に取り組む。
 領域課題(iii)「高精度気候モデル及び評価結果のアジア・太平洋諸国への展開と国際貢献」では、日本以外の地域でのモデル精度確認のためアジア・太平洋諸国を対象として、気象研究所が開発したダウンスケーリングモデルを国際的に普及させる取り組みを行う。本領域課題においては領域テーマC、D連携の枠組みを利用して現地の影響評価研究に活用してもらう仕組みの実現も試みる。
 本課題の社会へのアウトリーチは、国内的には、当プログラムの領域テーマD「統合的ハザード予測」、国立環境研究所 気候変動適応センター(CCCA)、環境省地球環境総合推進費(S-18)等との連携、また気象庁「地球温暖化予測情報」、環境省「気候変動適応情報プラットフォーム」等を活用し社会への情報提供を行う(県別の温暖化予測情報等を提供している)。また国際的には、IPCCへの貢献を行うとともに、結合モデル相互比較計画(CMIP)や統合的地域ダウンスケーリング研究計画(CORDEX)-アジアなどの国際共同研究へ積極的に参加する。これにより、本研究の計算・解析結果が各国の地球温暖化予測研究の進展につながるとともに、アジア・太平洋諸国との連携を通じた現地気候研究者の人材養成を行うことにより、我が国発の気候モデルがアジア地域における事実上のデファクト・スタンダードとなることを目指す。
 本課題では上記諸課題へ向けて下記陣容で解決に挑む。
領域課題(i)「高精度統合型モデルの開発」
 サブ課題a「高精度統合型モデルによる温暖化予測システム開発」
 サブ課題b「地域気候モデル開発」
 サブ課題c「海洋将来予測データベースのための統合型海洋モデル開発」
領域課題(ii)「汎用シナリオ整備とメカニズム解明」
 サブ課題a「汎用シナリオ整備と顕著現象変化メカニズム解明」
 サブ課題b「ユーザーニーズを踏まえた地域気候変化予測データの精査と新規大規模計算手法の開発」
 サブ課題c「台風等極端事象の高解像度ダウンスケーリングシミュレーション」
領域課題(iii)「高精度気候モデル及び評価結果のアジア・太平洋諸国への展開と国際貢献」
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令和2年度の成果目標及び業務方法

領域課題(i)「高精度統合型モデルの開発」

 サブ課題a.高精度統合型モデルによる温暖化予測システム開発

(目標)
開発を進めてきている大気・海洋結合モデルベースの温暖化予測タイムスライス実験システム (TSE-C) により、「地球温暖化施策決定に資する気候再現・予測実験データベース (d4PDF)」で指摘されている赤道からの遠隔影響の現実的表現や台風過発達バイアスの低減などの課題解決を図る。加えて、北太平洋域に高解像度領域海洋モデルを組み入れた TSE-C 高度化版 (TSE-Cn) の開発を進め、大気と海洋の変動が整合する温暖化予測プロダクト生成の可能性を探る。

(業務の方法)
既存の日本領域モデルを使用した、力学的ダウンスケーリング (DDS)を含むTSE-Cによる過去再現・将来予測実験を行い、大気海洋結合過程を考慮したことによる気候や豪雨・台風などの極端事象の再現性向上と将来変化の気候学的整合性向上の実現に向けてTSE-Cの構成する気候モデルの検証や海洋を観測に拘束するスキームの改良などの作業を、既存実験との比較を行いながら進める。この作業の中で、大気海洋結合タイムスライス実験を行い、大気海洋結合効果を導入したことによる新プロダクトに付加できる価値について考察する。また、使用する全球・領域大気モデルの解像度を変えた実験を行い、再現された気象現象などの解像度依存性を確認する。これにより、次期d4PDF で、トレードオフとなるアンサンブル数と解像度の選択肢の幅を広げ、有効な計算機資源の範囲内で最良のシステム構成を選択し、ユーザーの要望にも最大限対応する温暖化予測プロダクト作成を目指す。日本域のDDSによるプロダクトの品質向上と拡充も考慮し、TSE-CのDDSの構成をサブ課題(i-b)の成果も取り込みながら開発する。さらに、解像度 10km の北太平洋モデルをTSE-Cにネストした TSE-Cn の開発に着手する。高解像度の海洋モデルを導入して日本近海の複雑な海洋構造を再現し、サブ課題(i-c)と協力して、大気と海洋の気候場を改善した温暖化プロダクトの作成の検討を始める。以上に加えて、新しい大気海洋結合モデル開発、利用可能な大気化学温暖化プロダクトの吟味、150年気候再解析のためのシステム開発も実施する。

 サブ課題b.地域気候モデル開発

(目標)
適応策策定に資する信頼度の高いデータセットの創出を目指し、新たな地域気候モデルの開発を開始する。特に、日射量のバイアスが軽減されるように、感度実験を通してスキームの改良の方向性を決める。

(業務の方法)
予測結果の精度向上を目指し、新たなメソスケールモデルをベースとした地域気候モデルの開発を進める。具体的には、長期積分が可能なように、スペクトルナッジングと高精度の陸面過程スキームを導入する。また、全球モデル出力及び再解析データからのダウンスケーリングが行えるように、ネスティングに関するツール類を整備する。日射量の改善を念頭に置いた放射スキームの改良指針を得るため、(ii-b)と協力しながら、雲量診断スキーム、部分凝結スキーム、鉛直層に関する感度実験をNHRCMをテストベッドとして実施する。さらに、極端降水の再現性を向上させるため、対流のグレーゾーン問題に取り組む。具体的には、(ii-a)で実施される高解像度ダウンスケーリング実験データから積雲対流の再現性の解像度依存性を調べる。

 サブ課題c.海洋将来予測データベースのための統合型海洋モデル開発

(目標)
大気の将来予測データセットを外力として与え、北太平洋域高解像度海洋モデルを積分する海洋タイムスライス実験により、海域の温暖化予測情報の充実を図る。また、海洋モデルに低次生態系モデルを導入し、物理環境変動から生態系変動まで統合的に解析可能なデータを創出できるようダウンスケーリングシステムを改良し、海洋生態系環境や水産業に関連したニーズに応える予測情報の充実を目指す。さらに、日本域で高解像度化した海洋モデルを用いたダウンスケーリングを行い、黒潮などの主要な海流の日本周辺海域への影響を評価するとともに、沿岸域での海洋予測情報を拡充する。

(業務の方法)
海洋モデルへの低次生態系モデルの組込みを行い、栄養塩・プランクトンなどの将来予測データセットの作成に向けたプロダクト開発に着手する。モデル出力検証のための観測データを収集するとともに、モデルの構成や観測データにあわせたパラメータの調整について領域テーマ B と連携して検討する。また、SI-CATで開発した日本周辺海洋モデルに潮汐・河川モデルを導入し、潮汐・潮流による沿岸水位変動・海流変動などの表現力を向上でき、河川からの淡水流入の変動、栄養塩供給の変化を考慮し、沿岸生態系や水産業に与える影響の評価などユーザーニーズを踏まえた情報を提供可能なモデルの開発を進める。さらに、多くのCMIPモデルで偏西風がやや南偏していることが黒潮の再現性を低下させる原因となることがSI-CATで作成されたプロダクトからわかっており、これを解決するためには海上風の補正に加えて海上気温などを合わせて補正する必要がある。サブ課題(i-a)と協力して、大気DSデータを活用することでどの程度改善されるか実験を行うとともにこの解析で得られた結果を TSE-Cnの開発に活用する。

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領域課題(ii)「汎用シナリオ整備とメカニズム解明」

 サブ課題a.汎用シナリオ整備と顕著現象変化メカニズム解明

(目標)
高解像度実験、多数アンサンブル実験を用いた発生した災害級台風への温暖化影響評価、顕著現象将来変化に関する要因分析と、次期の将来気候予測実験のデザインに関する研究を行う。また、“データ2022”の中核となる将来気候予測実験を実施する。

(業務の方法)
全球大気モデル温暖化実験における東アジアの降水・循環応答の要因と特性について解析し、その要因を明らかにする。全球・領域モデルの双方を用いた多数例アンサンブル実験(d4PDF)の延長実験を継続するとともに、近年に発生した豪雨等の顕著現象のイベントアトリビューション研究、台風の将来変化などについて調査する((ii)-cとの情報交換)。また、発生イベントに対する非温暖化実験ならびに疑似温暖化実験を行うシステムを開発し、過去の温暖化・将来の温暖化影響を調査する。対流を解像できる高空間解像度実験を行い、線状降水帯等の顕著現象の空間解像度依存性を観測と比較しながら調査する。当課題で整備する温暖化予測データセット“データ2022”のCMIP5マルチモデルアンサンブル内での位置付けについて、日本周辺に着目し、再現性と不確実性の幅の定量化を行う。全球・領域気候モデルを用いた力学的ダウンスケーリングによる現在気候再現実験について、当初計画していた実験を完了させ、この結果を解析する。中解像度150年連続実験を継続して実施する。統合プログラムでこれまでに実施したプロダクトランと同様の設定で、日本全域JRA-55を用いた5kmダウンスケーリング実験を実施し、(ii)-bで実施するバイアス精査のための付加情報として提供する。これまでの実験を利用して、アンサンブル数とモデル解像度のバランス、予測の不確実性のカバー率を考慮した、次期の将来気候予測実験のデザインに関する研究を行う。第3年度に実施した実験結果を評価し、順次、領域テーマDへ提供する。影響評価・適応研究プロジェクトとの交流の場を積極的に持ち、実験結果を提供すると共に気候予測データセットのあり方について議論を行う。

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 サブ課題b.ユーザーニーズを踏まえた地域気候変化予測データの精査と新規大規模計算手法の開発

(目標)
豪雨・豪雪、日射、風、相対湿度、積雪などユーザーニーズのある気象要素を対象に、地域限定高解像度力学的ダウンスケーリングシステムの開発を進める。また、このシステムによりプロダクト創出し、地域気候モデル改良に向けた感度解析及び既存の領域モデル間比較を実施する。

(業務の方法)
d4PDFをベースとした5km大規模アンサンブル計算を関東と九州等を対象に実施する一方、より高解像度の計算により豪雨等の解像度依存性に関しても調査を行い、将来予測を実施する。。その際、アンサンブル数を減らすための効率的ダウンスケーリング手法の開発に取り組む。また、日射、風、相対湿度、積雪等に対して、SI-CATや統合Cで実施した既存の実験及び(ii-a)で計算される新しい実験を解析し、気象学・気候学的知見から、地域別・季節別にバイアスの特徴を整理する。バイアス評価の際には、(ii-a)で行なわれる全球気候モデル間比較の情報も参照する。さらに、その特徴を踏まえて、(i-b)と協力しながら、バイアス改善のための放射・陸面過程のパラメータ感度実験を実施する。雪に関しては、100mスケールの積雪分布予測を目指し、高解像度NHRCMと山岳積雪観測を比較する。上記で創出する各種データおよび研究成果のとりまとめを行う。

 サブ課題c.台風等極端事象の高解像度ダウンスケーリングシミュレーション

(目標)
雲解像モデル及び領域大気海洋結合モデルを用いた多数例の台風のシミュレーション実験により、台風の強度と中緯度域の雨量および降水強度の将来変化を推定する。

(業務の方法)
雲解像モデル及び領域大気海洋結合モデルを用いた高解像度ダウンスケーリング実験により、北上する台風の強度や最大強度位置、及び雨の将来変化を推定する。全球モデル気候変動予測実験の結果を用いて、日本付近の顕著台風を対象に高解像度領域大気海洋結合モデルによる力学的ダウンスケーリング実験を実施する。領域大気海洋結合モデルのアンサンブル実験を実施し、海洋に対する台風の感度を明らかにする。顕著台風について再現実験・擬似温暖化実験を行い、温暖化の影響と中緯度に与える効果を調査する手法を開発する。

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領域課題(iii)「高精度気候モデル及び評価結果のアジア・太平洋諸国への展開と国際貢献」

(目標)
東南アジア諸国を対象とした地域気候モデルによる温暖化予測実験を行う。

(業務の方法)
世界的な新型コロナウィルス感染症の感染拡大のため、東南アジア諸国からの研究者の招聘を行うことが困難なことから、国内の研究者等を雇用し、地域気候モデルを用いて気候実験を行う。その計算結果を、データ転送及びハードディスクにより、当該国(インドネシア、マレーシア)に送付し、データの解析についてメールやビデオ会議ツール等で指導を行う。CORDEX-SEAで指摘されている脆弱地域において、高分解能のNHRCMによる現在気候再現実験及び将来予測実験を行い、その結果を解析する。結果の影響評価研究への適用方法については、領域テーマDと連携をとり検討を行う。高解像度モデル相互比較プロジェクト(HighResMIP)については、60km解像度の150年ランと組み合わせた解析を行う。東アジア域のCORDEX-EAについては、CGCMからダウンスケールを行う環境を整備する。


業務の遂行に当たっては、研究連絡会を開き各課題間の連携を確認するとともに、外部有識者等からなる研究運営委員会で得られた全体の研究課題に対する意見や示唆により研究の方向性を確認・修正する。国内外の関連会合に参加して情報交換を行うほか、成果の進捗状況の把握及び情報発信に努めることで業務の効率的・効果的な運用を図る。さらに、より成果を社会実装に近づけるために、気候変動の将来予測等に関する種々の科学的知見をアピールする場や取りまとめる場(国際会議や国内検討会等)など、本業務での研究活動を打ち込む機会を適宜活用しながら、アウトリーチ活動に取り組む。特に今年度は雲解像モデルの国際ワークショップを開催し、本課題の最新の成果の発信と世界の先端的研究の状況把握・情報交換に努める。また本課題成果の温暖化研究への有効活用を目指して国内外の各種温暖化適応研究プロジェクトとの連携を図る。このため、領域テーマA/B/Dと連携するとともに、例年開催している領域テーマDとの連携を図るためのC/D連携研究会を共催し、さらに今年度は関係研究者・実務者等を統合プロ関係者のほか広く集めてワークショップを開催しデータセット2022に向けた情報創出の期待される姿について情報を集め、本課題における研究推進に反映させる。政府の各種取り組みのうち、文部科学省・気象庁で立ち上げた「気候変動に関する懇談会」、環境省が国立環境研究所内に設立した「気候変動適応センター」(CCCA)、環境省地球環境総合推進費S-18などの各種取り組みに協力する。本課題に新たに加わった諸研究機関との課題内連携、また、領域テーマA/B/Dとの課題間連携を効率的に進めるために、地球シミュレータ近傍に共用ストレージを増強する。

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令和2年度の結果

領域課題(i)「高精度統合型モデルの開発」

サブ課題(a)「高精度統合型モデルによる温暖化予測システム開発」

 大気・海洋結合モデルベースの温暖化タイムスライス実験システム(TSE-C)による実用性実証実験へ向け、予備実験とその検証をもとに調整を行った。加えて、次々期の予測システムを見 据えTSE-Cに北太平洋領域高解像度モデルを組み入れたTSE-Cnの作成に着手するとともに、気候変動のシナリオの新ストーリーラインの形成を目的としたTSE-C基盤モデルの水平高解像度化実験の準備を行った。TSE-C予備実験の検証においては、TSE-Cの降水の地理分布や季節変動等の気候再現性が「地球温暖化施策決定に資する気候再現・予測実験データベース(d4PDF)」と遜色がないこと、TSE-Cに大気・海洋結合過程を採り入れたことにより、海面水温と降水のラグ相関などの降水プロセス、台風最大発達緯度、台風通過による海面水温低下などにd4PDFと比較して明らかな改善が確認された。TSE-Cnにおいては、北太平洋海域の水平高解像度化の効果を実証することができた一方、特に偏西風の気候再現性の向上が黒潮等の予測にとっても重要であることが分かった。TSE-C基盤モデルの水平高解像度化においては、黒潮や湾流等海流の気候再現精度の向上が確認された。

サブ課題(b)「地域気候モデル開発」

 気候変動適応法が平成30年12月に施行され、適応策策定への機運が高まっている。実際、温暖化影響評価及び適応策関連のユーザーからの気候予測データ提供の要望は、年を追うごとに増えてきている。これまで多く提供してきた地上気温、降水量といった地域気候分野にとって主要な物理量のみならず、日射量、湿度といった量の予測結果についても関心が高まっているのが昨今の情勢である。
 本サブ課題では、温暖化影響評価、適応策策定等に資する信頼度の高いデータセットの創出を目指し、新たな地域気候モデルの開発に着手した。このモデルは気象庁現業で使用されているメ ソスケールモデルをベースとしている。このメソスケールモデルは日本の天気予報のために開発されたものであり、モデル内のスキームの改良が日々行われ予測結果の再現性の向上が図られている。よって、このモデルをベースとした新たな地域気候モデルは、日本を対象とした将来気候予測を行うのに最適なモデルであると考えられる。
 地域気候モデルには特有の開発事項があるため、まずはそれらに対処する必要がある。スペクトルナッジングがその一つであり、地域気候モデルの気象場が、境界値を与える親モデルのそれに追随するために必要なスキームである。もう一つは、陸面過程スキームであり、地域気候モデルでは年単位の長期積分が行われるため、植生、雪氷、土壌水分などを精緻に取り扱えるスキー ムが求められている。本サブ課題ではこれらのスキームの開発・改良を重点事項として研究を進めていく。
 これまでの研究から、従来の地域気候モデルによる日本の日射量の再現性は不十分であることが分かっている。一方、日射量は温暖化影響評価、適応策関連のユーザーからのニーズが高い量であることから、今後重要性を増していく物理量であると考えられる。従って、放射スキームの改良による日射量の再現性の向上は必須の研究事項である。本サブ課題では、放射スキームの開発・改良について重点事項として研究を進展させる。
 本プログラムでは、これまで2km格子の地域気候モデルを用いて、日本を対象とした現在再現及び将来予測実験を行ってきたが、降水が格子スケールに集中することで、過剰な降水量がシミュレートされることがあった。これを解決するため、再現された降水のモデル解像度依存性を調べ、各解像度における積雲パラメタリゼーションの必要性を探る。このいわゆる対流グレーゾーン問題についても、本サブ課題では重点事項と位置付ける。

サブ課題(c)「海洋将来予測データベースのための統合型海洋モデル開発」

 海域における気候変動予測情報に関して、水温・水位などの物理変数にだけでなく、栄養塩・プランクトンなどの生物化学変数に対するユーザーニーズが高いことが示されており、その要求に応えられるデータセットの作成が望まれている。本課題では、昨年度まで気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)で作成されたデータセットを改良するために、将来予測のための統合型海洋モデルの開発を進めるとともに、将来予測データベースを作成することを目的としている。
 本年度は海洋モデルの改良として、栄養塩・プランクトンを予測変数として低次生態系モデルを導入し、その性能評価を行った。大気外力として再解析データを用いて過去再現を行った結果は、北太平洋における生態系変動をおおよそ再現できており、将来予測データセットの作成に問題ない性能であることが示された。また、日本周辺の高解像度モデルについて、河川からの淡水流入の精緻化および潮汐変動を陽に表現するための改良を行った。その結果、沿岸域における水位変動に加え、淡水流入による塩分分布や、潮汐による混合効果の改善に伴う水温分布の改良が見られ、沿岸域の海洋構造の特徴の再現性が大きく向上した。
 これらの改良をふまえ、気候予測データセット2022における海域の将来予測データの作成にむけて、CMIP5の結果を元にした大気外力の整備についても行うとともに、その解析のための各種観測データ・海洋再解析データについても整備し、解説書作成のための準備を行った。

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領域課題(ii)「汎用シナリオ整備とメカニズム解明」

サブ課題(a)「汎用シナリオ整備と顕著現象変化メカニズム解明」

 本サブ課題は、気象研究所で開発された大気全球-領域気候温暖化予測システムを用いて、気候シナリオ実験を実施すると共に、この実験を元に顕著現象の変化メカニズムについて要因を解明することを目的とする。今年度は、初年度より継続して実施してきた全球20kmモデルから領域気候5km及び2kmモデルへの力学的ダウンスケーリング実験を当初計画通りすべて終了し、全球60kmモデルから領域気候20kmへの力学的ダウンスケーリングについても4種のRCPシナリオの下での150年連続実験を完了した。
 これらの実験結果及び追加の要因分析実験から顕著現象の変化要因を解析した。まず東アジアの降水・循環応答について要因分析実験を行ったところ、初夏は海面水温(SST)一様昇温と熱帯SSTパターン変化がやや優勢のため偏西風が南偏して梅雨降水帯が強化・南偏する一方で、晩夏~初秋は温室効果ガス増加に伴う陸面昇温や北半球中高緯度SSTパターン変化がやや優勢のため偏西風は弱化して降水量変化は小さくなっていることがわかった。
 日本の降雪・積雪の変化について複数シナリオの5kmモデル実験結果で調べたところ、北海道が他の地域に比べて降雪量の増加が顕著であった。これは気温上昇により降雪が降雨に変わる効果や積雪の融解が進む効果は限定的であることと、アリューシャン低気圧周辺の循環場の変化による西風の強化で降水量が増加することによることがわかった。
 日本域で100年に一度より低頻度の極端降水について、付随する大気循環偏差によるクラスター分類を行ったところ、北日本、中央域、西日本の3地域内で比較的似た傾向の循環偏差の分類が得られるが、隣接する地域でも東北地方や九州地方では山地を挟んでクラスターの相対頻度や発生時期に違いが見られることが確認できた。
 また令和元年台風第19号に伴う豪雨事例と、令和2年7月に球磨川に発生した線状降水帯の豪雨事例について、近年の気温上昇を除去した実験を行い、それが実際に発生した豪雨に与えた影響を評価した。近年の気温上昇により、台風第19号による関東甲信地方及び周辺地域の降水量は10.9%増加、令和2年7月豪雨期間における球磨川の豪雨は15%から20%程度増加した可能性があることがわかった。
 さらに全球20kmモデルとCMIPマルチモデルアンサンブルとの比較から、日本域における気候の将来変化と日本周辺の循環場との関係を統計的に調べ、予測の不確実性の要因について考察した。その結果、日本周辺の地域的な循環場の変化と気温及び降水量変化との間に統計的に有意な相関関係があることが示された。

サブ課題(b)「ユーザーニーズを踏まえた地域気候変化予測データの精査と新規大規模計算手法の開発」

 近年、地域気候モデルにより高解像度化されたアンサンブル気候データを活用した大雨リスクの将来変化や気候変動をふまえた治水の検討が進められている。これらの検討を全国的に進めるために関東地方と九州地方を対象とした20km解像度の大量アンサンブル気候データd4PDFの5km解像度への力学的ダウンスケーリングを実施した。この結果、利根川八斗島基準地点流域の年最大降雨量の頻度分布は観測値に近づくことがわかった。これは大雨リスクにおけるダウンスケーリングの有効性を支持する結果であり、流域内の降雨の空間的な特徴をより反映することで局所的集中豪雨のリスクの把握にもつながるため今後の治水計画の検討に重要な役割を果たすと考えられる。
 積雪の将来変化の地域差を明らかにすることを目的とし、地域気候モデルNHRCMによる1kmのダウンスケーリングを北信越と南東北の2地域について実施する準備として、5kmの結果で過去気候、2℃上昇、4℃上昇それぞれについて少雪・平均・多雪の各5事例の選定を行った。過去実験について抽出した延べ15年分の1kmのダウンスケーリングを両地域について実施した。また、全球再解析JRA-55を5kmにダウンスケーリングしたデータをもとにした1kmのダウンスケーリングを実施した。この結果を、AMeDAS及び防災科学技術研究所の山岳域での積雪深観測データと比較した。1km解像度での積雪深は5kmに比べ地形の影響をより反映したものになっていた。山岳域では5km解像度では積雪深の顕著な過大評価が見られるが、1kmではやや過小評価されていた。日本海側の平地で5km解像度の積雪深に見られる負のバイアスは1kmにダウンスケーリングを行っても解消されなかった。
 大規模アンサンブルデータd4PDFから北海道における10年に一度に相当する強い降水イベントを抽出し、それらのイベント発生時の総観場と海面水温との関係を調査した。強い降水が発生した日の循環場をクラスター解析により似た特徴を有する8つのクラスターに分類し、クラスター毎に強雨発生日数の年々変動を解析した。その結果、総観場の違いによって海面水温の降雨への影響度や領域に違いがあることが示唆された。特に、強い降水の発生回数と日本海の海面水温との間に高い相関が認められたが、それは主に北海道周辺で弱い低気圧性循環偏差を伴うパターンと南西から強い水蒸気フラックスが流入するパターンに起因することが分かった。
 アメダス観測データを用いて、日本の暖候期における強い降水と地上気温の関係を総観場の違いに着目して調査した。午後の局所的な雷雨に代表される降水継続時間の短いイベントのみならず、台風や前線のような総観規模擾乱に伴う降水継続時間の長いイベントにおいてもClausius-Clapeyron式の温度に対する可降水量の増加率を大きく上回る増加傾向を示した。特に、長時間持続する降水イベントに対する積算雨量の高い増加率は、将来気候下での大規模河川の洪水や土砂災害のリスクの増大を強く示唆するものである。
 北海道を対象とした5km解像度の力学的ダウンスケーリングによる気候変動予測実験において、札幌における冬季の豪雪頻度は将来において減少するわけではないことがわかった。札幌において典型的に豪雪となる気象状況を機械学習の一種、自己組織化写像を用いて分類したところ、西高東低冬型の気圧配置となるか、北海道の南を温帯低気圧が通過するかのいずれかで豪雪が発生することが分かった。4℃上昇の気候下にあっても前者の気象状況では依然、地上気温は氷点下であるため、空気内の水蒸気量は増加するため降雪頻度も増加することになる。一方、後者においては現状の降雪が氷点付近で起こっており、現在気候では降雪となっていたものが、将来は落下途中で融解し雨となるため、降雪頻度は減少することになる。
 令和元年台風19号(令和元年東日本台風)がもたらした降雨を過去の台風とd4PDFから分析し、類似の経路の台風の抽出及びその降雨特性、温暖化進行の降雨量への影響を評価した。この結果により、台風19号の経路が東側にずれていた場合には多くの地点で降雨量が増大した可能性が示された。d4PDFを用いて台風19号と類似経路の台風がもたらす降雨量の気候変動による影響を評価した結果、温暖化進行後では降雨量は増加し、特に上位90パーセンタイル値では降雨量の増加がより大きいことがわかった。また、温暖化進行後では台風19号の経路が東西に経度2度程度ずれた場合であっても過去の気候における台風19号の経路の台風がもたらす降雨量に匹敵する降雨が発生することが示された。
 降雨の空間的な偏差をもたらす要因を力学・熱力学効果で分類する手法を提案し、5km解像度のd4PDFに適用することで十勝川流域での大雨の空間的な偏差の要因を定量的に評価した。また、同データを用いて1時間降雨強度と気温・露点温度との関係性の把握から力学・熱力学効果を分析した。この結果、降雨量が相対的に大きい日高山脈周辺では熱力学と力学の両者の効果が降雨の強化に作用することが明らかとなった。
 アンサンブル気候データの活用により、極端降雨の強度・生起頻度だけでなく極端降雨の時空間的なパターンの分析も実現する。降雨の時空間的な特徴に基づくパターン分類手法を構築し、d4PDFに含まれる大量の降雨イベントの分類を実現した。これにより、地点ごとにピーク流量が大きくなりやすい降雨パターンの特定が可能となるなど、防災上重要となる降雨パターンの分類・抽出が可能となった。
 5kmにダウンスケーリングしたd4PDFの降雨情報から九州域を対象に線状降水帯を抽出した。平成29年九州北部豪雨が発生した2017年7月と、平成30年7月豪雨が発生した2018年7月を対象に、非温暖化実験と現在気候実験とを比較した結果、いずれの年も現在気候実験のほうが線状降水帯の回数が多いことがわかった。空間分布の特徴として、九州西岸では東南東-西北西方向の走行を持つ線状降水帯が多く、九州東岸では海岸線に沿うような線状降水帯が多い。現在気候実験と非温暖化実験の差を見ると、空間的なばらつきが大きく、系統的な差を評価するにはより長期間のデータが必要になると考えられる。
 NHRCMを使ったJRA55からのダウンスケール実験から、盛夏期の熊谷における日最高気温には、高温域と低温域で逆符号の定量的なバイアスがあるものの、極端な高温ではその出現時期や気温自体の再現性が比較的良好であることが分かった。また、そのような極端な高温をもたらす環境場については、JRA55からのダウンスケーリングである完全境界実験と、全球気候実験からのダウンスケーリングである現在気候再現実験との間で共通した特徴が確認できた。太平洋側の熊谷と日本海側の新潟で、極端高温の発生時期は異なるものの、極端高温をもたらす環境場については上空Z200で共通して高気圧偏差が出現し、日本全体が高温になりやすい条件であったことが分かった。
 領域モデルNHRCMで作成した気候情報に含まれるモデルバイアスの改善を行うためには、その要因を切り分けることが必要である。本年度はNHRCMの親モデルとなるMRI-AGCM20km(AGCM20)でのモデルバイアスが、ダウンスケーリング実験時に子モデルであるNHRCMの結果にどの程度伝播されるのかを季節平均値を対象に調べ、NHRCMでの領域気候実験において改良すべき点の精査を試みた。
 モデルによる地域気候の現状把握、将来予測、及びそれらを用いた影響評価の信頼性を高めるためには、地域気候モデルにおける不完全性を可能な限り排除しながらバイアスを低減することが必須である。特に日射量については、利用者からの需要が高いものの、バイアスが大きいことが指摘されている。モデルのバイアスの低減を目指し、改変したモデルを用いたダウンスケーリング実験を行い、既存のd4PDF20km実験及びSI-CAT5km実験に用いられたモデルによる実験と比較し、モデル感度の変化を調査した。
 NHRCMが持つ未知のモデルバイアスを精査するために、まず、既存の各NHRCMデータセットの計算仕様及び既知のモデルバイアスについて調査し、一覧表としてまとめた。また、モデルバイアス精査に使用可能な観測データについても調査を行い、カタログ表を作成した。さらに、これまでにあまりバイアス評価がなされていない地上風速に着目し、統合2km実験データにみられるモデルバイアスを解析した。その結果、地上風速のモデルバイアスは冬季・春季にやや大きく、また、複数地点で地点依存の特異なモデルバイアスがあることが分かった。

サブ課題(c)「台風等極端事象の高解像度ダウンスケーリングシミュレーション」

 本年度の目標は、雲解像モデル及び領域大気海洋結合モデルを用いた多数例の台風のシミュレーション実験により、台風の強度と中緯度域の雨量及び降水強度の将来変化を推定することである。そのためにこれらのモデルを用いて、顕著台風についての再現実験、擬似温暖化実験、全球モデル気候変動予測実験の結果についての高解像度ダウンスケーリング実験、及び領域大気海洋結合モデルのアンサンブル実験を実施した。ここで用いる雲解像モデル及び領域大気海洋結合モデルは、CReSS及びCReSS-NHOESである。
 まず、顕著台風の実験として、海洋の影響が大きいと予想される移動速度が遅い台風Trami(2018)について、再現実験と擬似温暖化実験を実施し、顕著台風の強度の将来変化を推定した。この実験では、水平解像度を1kmメッシュまで細かくした高解像度領域大気海洋結合モデルを用いて複数の海水温プロファイルによるアンサンブル擬似温暖化実験を実施し、台風強度の将来変化と海洋に対する台風の感度を調査した。再現実験では、気象庁客観解析データ及びJCOPE2再解析データを初期値・境界値に用いた。擬似温暖化実験はこれまで行ってきたように全球気候モ デルの現在と将来の気候の実験から、海面水温、気温、水蒸気、及び高度の差分を初期値・境界値に与える。海洋については、温暖化による海面水温の上昇分を水深100mで0になるように線形減少させて加算するものと、海面水温の上昇分を一様に加算したものを用いた。台風Tramiはきわめて遅い速度で28℃以上の暖かい海上を北西進し、経路周辺の海洋貯熱量はおおむね60kJ cm-2以下であった。これに対して2つの擬似温暖化実験では、計算領域平均のSSTが3.4℃上昇するため31℃を超える暖かい海域となり、経路沿いのほとんどの海域で海洋貯熱量がそれぞれ100kJ cm-2と140kJ cm-2と顕著に大きくなっている。実験の結果、再現実験と比較して、2つの擬似温暖化実験では、海面水温が3℃以上も高かったものの、台風が急速に発達して地上風速も強まったため、台風の発達のカギを握るとされる台風内部コア域のSSTが大幅に低下し発達が抑制されることになった。本実験より、温暖化気候下、移動速度が遅い顕著台風では、台風がより強くなることでより大きな海面水温の低下を引き起こし台風の発達がより抑制されるという、大気海洋相互作用による温暖化気候下の台風の発達抑制メカニズムが明らかになり、台風の最大強度や最大強度以降の強度について、温暖化時の海洋表層の海水温プロファイルに高い感度を持つことが示された。
 また、中緯度の雨量及び降水強度の将来変化を推定するために、2019年10月に東日本に甚大な豪雨災害をもたらした台風Hagibisについて、高解像度領域大気海洋結合モデルを用いて温暖化に伴う雨量や降水強度の将来変化を調べた。このような豪雨が将来の温暖化気候下でどのようになるかを明らかにするため、水平解像度1kmの領域大気海洋結合モデルで擬似温暖化実験を実施した。実験の方法は前述のTramiの場合と同様である。このときの海面水温は日本の南海上で26℃以上であり、一方で温暖化気候では計算領域平均で3.3℃上昇し、関東以南の海上はおおむね30℃を超える極めて暖かい海域となっていた。再現実験では約1000mmの伊豆の大雨や、静岡・関東山岳部・東北沿岸の大雨分布をよく表現した。2つの擬似温暖化実験では、ともに降水量と降水強度が増大し、特に関東以北の太平洋側で降水量が100mm以上増加していた。擬似温暖化実験では、台風本体の通過に伴う降水量の増加に加えて、台風接近時に先行してもたらされる降雨の開始時刻が早まることで、関東以北の太平洋側の降水量が大きく増加することが明らかになった。海洋の温暖化条件を、全層一様に水温を増加させたものとすると、台風はより高緯度の南東北まで強度を保ち、南東北の降水量により大きな増加がみられた。
 次に全球モデル気候変動予測実験の結果について、力学的ダウンスケーリング実験を実施し、北上する台風の強度や最大強度位置などの将来変化を推定した。21世紀気候変動予測革新プログラムにおいて気象研究所が実施した、20km解像度の全球大気モデル(MRI-AGCM3.2S)を用いた現在気候(SPA:1979~2003年)、近未来気候(SNA:2015~2039年)、将来気候(SFA:2075~2099年)の気候変動予測実験にみられる台風から、最低中心気圧970hPa以下のものを抽出し、水平解像度2kmの雲解像モデルCReSSによる力学的ダウンスケーリング実験を実施した。なお、実験では、1次元スラブ海洋モデルで強風等による海面水温低下の効果を考慮している。実験の結果を詳細に解析し、台風の統計的特徴と構造の変化を明らかにした。極端に強い台風に着目すると、将来気候・近未来気候では、現在気候ではほとんどみられない最低中心気圧が870hPaより低い台風が発生した。最低中心気圧の平均値は、現在気候、近未来気候、将来気候でそれぞれ912.3hPa、914.5hPa、904.8hPaと顕著な差異はみられないが、最大強度上位30%について中心気圧の平均をとると、現在気候、近未来気候、将来気候でそれぞれ890.1hPa、879.2hPa、859.6hPa となり、現在気候から近未来気候、将来気候の順で平均強度が強まる。台風の生涯最大強度をとる緯度の平均値は現在気候、近未来気候、将来気候でそれぞれ北緯20.38度、北緯21.61度、北緯21.95度となっており、将来気候では現在気候に比べて1.5°ほど最大強度の平均緯度が北上していることなどが示された。
 さらに全球大気海洋準結合実験からの力学的ダウンスケーリング実験を行い、海洋に対する台風の感度を明らかにした。この実験で外部条件として用いるのは、気候変動リスク情報創生プログラムで開発された、気象庁気象研究所全球20km大気モデル(MRI-AGCM3.2S)に海洋モデル(OGCM: MRI-COM)を結合した全球大気海洋準結合モデルである。その出力結果から顕著台風 を対象に高解像度領域大気海洋結合モデルによるダウンスケーリング実験を実施した。本年度は日本域に接近・通過した最低中心気圧937hPa以下(カテゴリー4~5相当)の非常に強い台風を対象に、経度・緯度方向ともに0.04度(4km格子相当)のCReSS-NHOES(3do実験)及び海洋1次元スラブモデルを用いた CReSS(1do実験)によるダウンスケーリング実験を実施した。全球準結合モデルで発生したある台風は南西諸島を北西進し台湾北海域の北緯26.53度で最大強度(最低中心気圧898.51hPa)に達した。一方、CReSS-NHOES及びCReSSによる3do、1do実験では、それぞれ北緯23.4度及び北緯23.5度で最低中心気圧913hPa及び910hPaの最大強度に達した。全球大気海洋準結合モデルにおいても 3 次元の海洋モデルを結合し湧昇の効果を取り入れているものの、全球大気海洋準結合モデルの海洋モデルは経度方向の分解能が1度、緯度方向の分解能が0.5度と比較的粗い。そのため、より小さなスケールの局所的な海洋応答の表現が不十分であったと考えられる。
 最後に顕著台風について、温暖化の影響と中緯度に与える効果を調べる手法として、擬似温暖化実験フレームの拡張についてまとめた。これについて本年度は、i)温暖化差分の1次元化、ii)海洋の温暖化差分のアンサンブル化(ともに本年度の成果1. Typhoon Tramiに対する擬似温暖化実験、2. Typhoon Hagibisに対する擬似温暖化実験で使用)、iii)MANAL及びERA5(Hersbach et al. 2020)にも対応可能なダウンスケーリング実験ツール等を新しく開発・整備した。これらを用いた例として、2019年9月に関東地方に上陸し、大きな暴風被害をもたらしたTyphoon Faxai (2019)を対象にCReSS-NHOESを用いて行った擬似温暖化実験と、1981年8月上旬の石狩豪雨の再現実験を実施した。これらにより、1950年から現在までの季節や地域を問わずさまざまな極端事例について、より高い再現性が期待できる時空間的に高解像度の外部入力データからのダウンスケーリング実験や擬似温暖化実験が可能となった。

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領域課題(ⅲ)「高精度気候モデル及び評価結果のアジア・太平洋諸国への展開と国際貢献」

 領域課題(ⅲ)は大きく2つのテーマからなっている。一つは、アジア・太平洋諸国において温暖化による詳細な気候変動予測を行うことである。アジア・太平洋諸国から研究者を招聘して、それぞれの国において気象研究所全球大気大循環モデル(MRI-AGCM)によって計算された気候変動予測の結果を、気象研究所非静力学地域気候モデル(NHRCM)で、2~5kmの解像度に力学的ダウンスケーリングを行う。この実験は、影響評価研究者が利用しやすいよう、実験設定段階からテーマDと緊密な連携をとりながら行った。計算結果は、テーマD及び各国の影響評価研究者に渡され利用されるとともに、各国に持ち帰った後さらに詳しい解析がなされる。また東南アジア域における地域気候モデルによるダウンスケーリング結果の比較を行う国際プロジェクトである東南アジアにおける地域気候モデル国際比較実験(CORDEX-SEA)にもそのデータは提出される予定である。
 本年度はまず、インドネシアを対象とした5km格子のNHRCMによる現在及び将来(世紀末)気候実験を昨年度に引き続き実施した。インドネシアは計算領域が広いため、昨年度中に現在・将来(世紀末)それぞれ20年分の実験が終わらなかったが、今年度にそれぞれ20年分のデータセットが完成した。また、当初計画になかった近未来を対象とした同領域の実験も実施された。よって、現在(1981~2000年)、及びRCP8.5シナリオによる近未来(2035~2054年)と世紀末(2079~2098年)の合わせて3期間の気候予測データセットが整備されたことになる。今年度はコロナ禍の影響で現地の研究者を招聘できなかったが、完成されたデータが現地に送付され、現地の研究者による解析が行われた。
 マレーシア東部を対象としたダウンスケーリング実験も今年度に実施された。これは2km格子のNHRCMによる現在及びRCP8.5シナリオによる将来(世紀末)気候実験であり、昨年度にマレーシア西部を対象に実施された実験と同様な設定を使っている。境界値として一昨年に実施されたマレーシア全域を対象とした5km格子のNHRCMによる計算結果を用いた。これらマレーシア東部、西部を対象とした計算領域には、極端降水に対して比較的脆弱な地域が含まれている。また5km格子のNHRCMによる計算結果から、極端降水指標の変化率が大きい地域であることも分かっている。西部の計算結果は既に解析が進捗しており、論文が執筆されているところである。東部については、今年度にデータセットが完成したところであり、今後解析が進められていくことになる。
 もう一つのテーマは、温暖化予測実験の結果を国際的に比較するプロジェクトに参加し、気象研究所のモデルの特徴を知り、更なるモデルの高度化を目指すことである。高解像度モデル相互比較プロジェクト(HighResMIP)では、このプロジェクトの枠組みで作成したデータとサブ課題(ii)で作成した150年連続積分実験データとを組み合わせて解析を行うと共に、他機関のモデルによる計算結果との比較も行った。また、東アジア域における地域気候モデルによるダウンスケーリング結果を比較するCORDEX-EAにおいては、データの提出が既に終わっていることから、今後を見据えた研究に着手した。まずは、CMIPモデルによる計算結果からのダウンスケーリングを念頭に置いて、MRI-ESMのモデル面からのダウンスケーリングの準備を行った。

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Abstract

Area Theme C: Integrated Climate Change Projection

Japan Meteorological Business Support Center: Izuru Takayabu

 TOUGOU-C's targets are, (1) arranging the integrated climate change projection data around Japan Islands or Asian countries, and (2) preparing a high accuracy, local scale climate change data, especially extreme events. For this purpose, we develop more advanced model systems to represent the local climate and to clarify the mechanism of climate change. The overall structure of the program is shown in Fig.1. Here, the feedback from users of climate change data will also be taken into account.


Fig.1 Schematic representation of TOUGOU Theme C.

 Internationally, the 6th assessment report (AR6) of IPCC WGI is due to be finalized in 2021. In AR6, linkage between WGI (assesses the physical science basis), WGII (assesses the vulnerability, socio-economic and natural systems), and WGIII (focuses on climate change mitigation) is strongly recommended.
 In Japan, establishing climate change adaptation plan is an urgent issue. The Cabinet decided "National Plan for Adaptation to the Impacts of Climate Change" in November 2015. Following to this decision, MOE has started the action of A-PLAT (Climate Change Adaptation Information Platform) in August 2016, in it they provide many local governments scale climate change information. Finally, "Climate Change Adaptation Act" has been enacted on June 13th 2018, and came into force on 1st December 2018. It was founded under the recognition that the climate change including global warming (global warming as defined in Article 2, Paragraph 1 of the Law Concerning the Promotion of Measures to Cope with Global Warming (Law No. 117 of 1998)) has impacts on present daily life, society, the economy, and the natural environment, and in the future it will increase. It's purpose is to develop climate change adaptation plans and to provide the information on both impacts and adaptation, thereby contributing to the health and cultural life of Japanese people present and future. In order to promote climate change adaptation comprehensively and systematically, the government must establish a plan for Climate Change Adaptation. In our program we have to develop national climate change scenarios for this purpose.
 Center for Climate Change Adaptation (CCCA), which was set by MOE in NIES provides useful technical information to the local governments for promoting climate change adaptation. CCCA needs high resolution and accurate climate change projection data provided by our program TOUGOU Theme C.

 Fig.2 indicates the flow chart for producing national climate change scenario. We expect a five-year cycle of producing valuable data to be used by county base climate adaptation plan. We need to project more accurate and less uncertain information of climate change in local scale to distribute valuable data for this cycle.


Fig.2 The flow chart making national climate change scenario.

 We have three sub-programs and many cooperation were made with domestic and international climate change projects and activities.

(i) Developing a new simulation system
 Here we develop an ocean projection system (10km grid Northern Pacific and 2km grid near Japan archipelago) to deliver a high resolution, high-accuracy ocean characteristics data. For the next step it is expected that atmospheric data and ocean data should become consistent. For that purpose, we developed a kind of air-sea coupled model system with some nudging to protect the models from drifting. Also, we change the base of our regional models to a new operationally driven one. It is strongly expected that we can deliver not only the surface temperature or precipitation, but also radiation, relative humidity, or surface wind. It makes the range of application wider than before, and include for renewable energy generation issues.

(ii) Clarification of climate change mechanism
 From the user's point of view, the clarification what causes the climate change is strongly requested. We adopt mega ensembles calculation results (d4PDF), or pseudo global warming (PGW) experiment to clarify the cause of the climate change influence in the phenomena. Fig.3 illustrates how to clarify the mechanism of extreme precipitation around Japan, connecting with the planetary scale phenomena. We can say that a local phenomenon is connecting with a large-scale climate issue.


Fig.3 Schematic figure of considering multi-scale mechanism of climate change effect on extreme phenomena like heavy precipitation.

(iii) Climate change data-set family
 As shown in Fig. 4, our project's whole products make a family of climate change data-set. These series of dataset come from the balance between the model resolution and ensemble numbers. All calculations have been done by using the same model system, which is NHRCM nested into MRIAGCM3.2. MRI-AGCM3.2 is an atmospheric GCM driven by COBE-SST plus SST anomalies obtained by CMIP5 models. NHRCM is a non-hydrostatic regional model. There are a series of products. A 150 years sequential experiments could indicate a continuous climate change trend, and thus be useful for considering temporal changes water resources. Products by cloud-permitting models would be useful to consider extreme phenomena, like heavy precipitation or typhoons, flood of small river basin or inland waters flood. We can use these results hybrid, to overcome some insufficiency when only one kind of approach is used.


Fig.4 Dataset family produced in TOUGOU-C program.

(iv) Feedback from users
 As shown in Fig.1, we get feedback from data users, to make our products more useful for them. We collaborate on this purpose with TOUGOU Theme-D. Also, we conducted the opinion exchange meeting three times with domestic data users last year.

Sub-theme (i): Development of high-precision models integrated with climate- relevant processes

Japan Meteorological Business Support Center: Masayoshi Ishii

 For further improvement of future-projection products used for climate change adaptation and mitigation, we are developing global and regional coupled models of high resolution, which is a revision of the present earth system model of the Meteorological Research Institute of the Japan Meteorological Agency. So far, we conducted time-slice experiments with high-resolution atmospheric models for future changes in extreme weather and climate events such as typhoon and strong precipitation. The versions of the same model have been used under consecutive domestic globalwarming research programs called KYOSEI, KAKUSHIN, and SOUSEI, in Japan. The model performances are satisfactory in comparing the model climatology and internal variation with atmospheric modes used for global warming studies world-wide. However, the models ignore air-sea coupling, and they produce atmospheric states only. This motivated us to introduce coupled models for conducting future projections with time-slice experiments. Such coupled experiments provide us more physically consistent products than ever and these should be informative in relation to understand future climate changes in extreme events as well as mean states.
 The regional model used so far will be replaced by a new one that is used on an operational basis at the Japan Meteorological Agency. The resolution should be high in order to represent heavy precipitation enhanced topographically. To realize this, we have overcome several problems in cloud process schemes adopted by the model. A coupled regional atmosphere and ocean model has been developed in this subtheme. With this model, we understand the necessity of air-sea interactions and well-structured ocean states around Japan for representation of the actual Japan climate.
 Global warming in the oceans is also a great public concern, but information on future oceanic states has poorly been available. Now we perform ocean warming experiments with regional ocean models down-scaled to North Pacific and western North Pacific regions, by using atmospheric states of several CMIP5 models. A model of marine ecosystem is incorporated to the models, which may satisfy strong demands for estimation of future fishery products.
 We also plan to examine possibility of atmospheric chemistry products by introducing chemistry models including complicated chemical processes and transportation. These physical and chemical products will hopefully respond to various social demands.
Needless to say, understanding past climates for more than 100 years is as important as predicting future climates in the next 100 years. At present, the past climates are poorly known particularly before the International Geophysical Year (1958-59). Even in the past climate, big typhoons landed on Japan islands, and the old Japan experienced severe disasters due to heavy rain and drought. It is beneficial to modelling and climate predictions to understand how and why these events occurred as a result of long-term climate variations. Therefore, a study for 150-year climate reanalysis is incorporated in this subtheme. Here, we will develop a system of long-term data assimilation with sparse observations.

Sub-theme (ii): Development of climate scenarios for multi-stakeholder applications and understanding the mechanisms of climate change

Japan Meteorological Business Support Center: Toshiyuki Nakaegawa

 In this sub-theme, we have completed a set of future climate projections with high horizontal resolution atmospheric global and regional climate models with high reliability. It can be widely used for impact assessments and risk managements for water, agriculture, and health sectors. We also investigated mechanisms on future changes in climate extremes. Regional climate change projections are scrutinized based on users' needs. Moreover, we conducted intensive experiments on the future changes of typhoons by using a coupled atmosphere-ocean regional model to address the mechanism of uncertainty in the future climate projections of typhoons. In this fiscal year, following research topics were conducted.

(ii) a Development of climate scenarios for multi-stakeholder applications and understanding the mechanisms of future changes in extreme events

 Global model simulations showed that a homogeneous SST warming causes westerly winds to shift southward in early summer, while changes in tropical SST patterns strengthen and shift the rainy season precipitation zone southward. In late summer and early autumn, westerly winds weaken and precipitation becomes smaller due to land surface temperature rising and mid- to high-latitude SST changes caused by increasing greenhouse gases. Changes in snowfall and snow cover in Japan were examined by using the results of a 5-km NHRCM experiment with multiple scenarios. The increase in snowfall was more pronounced in Hokkaido than in other regions due to the limited impact of surface temperature rise on the conversion of snowfall to rainfall in Hokkaido.

(ii) b Evaluation of regional climate simulations based on user needs and development of the new large-scale calculation method

 Downscaling data were scrutinized in response to users' needs. To scrutinize the unidentified NHRCM model biases, we analyzed the existing NHRCM dataset and compared it with the already known model biases and observed data. For example, at the HNRCM on the 2-km grid, the winter and spring ground wind speeds were slightly larger than observed, and there was a peculiar bias in the ground wind speeds at some stations, probably due to the low spatial representativeness of the observed ground wind speeds. For the downward shortwave radiation, which is highly demanded by users, the d4PDF simulations of 20-km and 5-km grid spacing of NHRCM and the improved version of NHRCM are compared in terms of the sensitivity of the model parameters related to solar radiation.

(ii) c High-resolution simulation of typhoons and extreme events

Nagoya University: Kazuhisa Tsuboki

 Pseudo-global warming experiments were conducted against severe Typhoon Trami (2018) which is characterized by a small moving speed, and the future change in intensity was examined. In such a typhoon, the strengthening of the typhoon due to global warming caused a large decrease in sea surface temperature, and the suppression of typhoon development became more prominent. The mechanism of development suppression of the typhoon by atmospheric-ocean interaction in a warming climate was clarified, and it was shown that the intensity of typhoons is highly sensitive to the seawater temperature profile of the ocean upper layer. As a case of future change projection of rainfall amount and intensity in association with a typhoon in mid-latitude, we investigated the future change in typhoon Hagibis, which caused a catastrophic disaster in eastern Japan in October 2019. In this case, in addition to the increase in rainfall amount due to the passage of the main part of the typhoon, the precipitation on the Pacific side north of the Kanto region increases significantly due to the predecessor rainfall. Next, dynamical downscaling with a horizontal resolution of 2-km was conducted for the typhoons simulated in the global model. For the top 30% typhoons in maximum intensity, the average intensities were 890.1 hPa, 879.2 hPa, and 859.6 hPa in the present, near-future, and the late-twenty first century climate, respectively. The latitude of the maximum intensity of typhoons shifts northward by an average of about 1.5° in the late-twenty first century climate compared to the present climate. Furthermore, a dynamic downscaling experiment from the global atmosphere-ocean quasi-coupling experiment was performed. Owing to a coarse resolution of the global ocean model, the local ocean response was poorly represented. As a result, this model showed a northward bias of maximum intensity latitude of typhoon compared to the results of the highresolution regional atmosphere-ocean coupled model. Finally, we developed expanded versions of the pseudo-global warming experiment frame as a method for investigating the effects of global warming on severe typhoons. This enables us to perform downscaling experiments and pseudo-global warming experiments from spatiotemporal high-resolution external input data for various extreme events from 1950 to the present.

Sub-theme (iii): Advancing international collaboration through the application of a high-performing climate model over many countries in the Asia-Pacific region

Japan Meteorological Business Support Center: Akihiko Murata

1) Climate change projection in vulnerable areas
 First, simulations for the present and future climate over Indonesia were performed using NHRCM with 5-km grid spacing. Ten years of simulations out of 20 years, for each present and future climate, were finished in last year. The rest of simulations, 10 years of each present and future climate, were conducted this year. In addition, 10 years of simulations for near future climate were performed. Generally, the spatial distribution of orographically induced precipitation is well reproduced by the model with 5-km grid spacing although many areas have negative biases. In the future climate, seasonal-mean precipitation increases over most of Indonesia in winter. Particularly, there is a tendency to so-called wet-get-wetter situation over Java. Only limited regions have decreases in the seasonal-mean precipitation. In summer, changes in seasonal-mean precipitation are positive over the northern part of Indonesia, whereas negative over the southern part. Contrary to winter, Java tends to have so-called dry-get-drier situation. Next, simulations for the present and future climate over the eastern region of Malaysia were conducted using NHRCM with 2-km grid spacing. Since simulations for the western region of Malaysia were performed last year, this is the second convection-permitting regional climate simulation for Malaysia using NHRCM with 2-km grid spacing. These two regions have been decided based on the degree of vulnerability to global warming, particularly precipitation extremes. In fact, model results using NHRCM with 5-km grid spacing for the whole area of Malaysia demonstrated that indices for extreme precipitation would become greater over those two regions of Malaysia in a warmer climate. Projected data for the eastern region of Malaysia are being analyzed by a researcher in Malaysia.

2) International comparison of climate change projection
 Data analyses using outputs for the international project to compare the results of high-resolution global models (HighResMIP), in addition to outputs the 150-years projection data of the present project, have been done. To contribute Coordinated Regional Climate Downscaling Experiment-East Asia (CORDEX-EA), downscaling experiments using NHRCM with boundary conditions of earth system model outputs are being planned.

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